Jo Phee(ジョー・フィー):陰ヨガと人生の繋がり
One World, Many Asanas vol.1
「One World, Many Asana」は、世界中の人々がどのようにヨガを実生活に取り入れて実践しているのか探求し、共有することを目的とするプロジェクトです。
今秋、UTLで筋膜リリース&陰ヨガのティーチャートレニーニングを開催する、Jo Phee(以下Jo、敬称略)にお話を伺いました。陰ヨガの経歴、陰ヨガや筋膜リリースの指導方法、そしてCOVID-19が個人的な練習や教え方にどのように影響を与えたか。また、陰陽ヨガの両方を実践すること、さまざまなスタイルを試すこと、自分の体や生活に合わせて練習内容を調整することの重要性についてもお話しいただきました。
#1 陰ヨガとの出会いと師の影響
UTL お久しぶりですね。お元気ですか?
Jo 元気にしていますよ。今、カナダのモントリオールにいるんです。
UTL ヨガの指導ですか?
Jo いいえ、解剖学のワークショップに参加するためなんです。
UTL 本当に様々な活動をされていますね。解剖学のお話しも興味深いのですが、まずはヨガの経歴についてお話しいただけますか?
Jo 私が始めた頃はアシュタンガヨガが大好きで、毎日ヨガをしていました。ただ、マイソールの後、いつも疲労が残るような感じがしていました。
その後、2005年に陰ヨガのワークショップに出席したのですが、じつは今まで受けた中で最も苦痛を感じるヨガでした。一つのポーズに長く留まることが苦しくて、初めての陰ヨガにただただ戸惑っていました。アシュタンガヨガは5呼吸の間、ポーズを停止するのですが、陰ヨガは5分間停止しないといけなかったんです。
その一方で、まったくの未知だった陰ヨガに興味を抱いて、もっと勉強したいと思うようになりました。(陰ヨガの創始者である) ポール・グリリーに学ぶようになってからは陰ヨガにハマって、いまでは陰ヨガだけをしています。もう18年になりますね。
陰ヨガを学ぶ前はアシュタンガヨガを実践していた。
UTL 創始者であるポール・グリリーから学ぶというのは、すごいことですね。
Jo そうなんです。2007年にアメリカ・シカゴでポールに初めて教わったのですが、当時は誰も陰ヨガについて知らないような状況でした。もちろん、アジアでも誰も陰ヨガのことを知りません。そんな中、シンガポールに戻った後に陰ヨガを教え始め、多くのクラスを持つようになりました。
それから陰ヨガは人気になって、ポールをアジアに招待するようになり、2009年からは彼のアシスタントをしていました。ただ、ポールは年を重ねるごとに外国への長旅が難しくなってきたので、私たちシニアティーチャーに指導方法を教え、指導を託すようになりました。彼は今でも先生であり、メンターであり、私を支援し続けてくれています。
UTL ポールはいま何をしていますか?
Jo アメリカで、瞑想やヨーガスートラ、バガヴァッド・ギーターなどの経典を教えています。高次のヨガの教えを指導することを好んでいるようです。
UTL なるほど。ところでJoは中医学や解剖学を学んでいましたが、その経験は指導法にどのように影響していますか?
Jo 私自身は中国人なので、両親の影響で幼いころから中医学に触れていました。ポールから陰ヨガを学び始めたとき、中国医学の理論を陰ヨガに取り入れていることに気付き、ポールと一緒に中医学の経絡理論を勉強するようになり、シンガポールの中医の学校にも通いました。
解剖学もポールにトレーニングを受けました。また、10年前からは筋膜を研究し始め、専門家や科学者、研究者から日々学んでいます。欧州とアメリカの筋膜研究のコミュニティでも活発に活動していて、陰ヨガのティーチャートレーニングにも筋膜理論を取り入れています。
ちょうど今、カナダ・モントリオールで世界トップクラスの筋膜研究者Carla Steccoから学んでいるところです。カナダでのワークショップの後、アメリカで彼女の助手をする予定なんです。11月に東京で開催する予定のティーチャートレニーニングで、筋膜に関する最新情報を共有するのが楽しみです。
#2 陰ヨガの実践と指導
UTL さて、陰ヨガについてもう少し掘り下げて伺いたいと思います。今までに経験した、陰ヨガに対する誤解はどんなことですか?また、それらにどのように対処していますか?
Jo はい。最もよくあるのが、陰ヨガが怠惰な人たちのものだという誤解です。陰ヨガは寝ているだけのヨガで、あまり効果を感じられないと思われがちなのですが、これは明らかに事実ではありません。
身体的には、筋肉をリラックスさせることによって深部の筋膜結合組織を物理レベルで伸ばすことができます。エネルギーについても、経絡を刺激するのに非常に役立ちます。長時間ポーズをとることで経気をスムーズに流れるようにします。経気がスムーズに流れると、より落ち着き、より穏やかでバランスのとれた状態になります。
精神的には、陰ヨガはとてもゆっくりした練習であるため、誰にでも適しています。とくに現代人は、非常に忙しいストレスフルな世界で生活しているため、自分の心の活動をゆっくりと落ち着かせることが必要です。人生で問題を抱えている人々にとっては、自分自身が平和になり、外部環境からの負担を感じない状態で、これらの問題を処理することができるようになります。
このように、陰ヨガには、物理的、精神的に非常に多くの利益があるため、5分間ストレッチして寝ていることに、深い意味があることを知っていただければと思います。
UTL スタジオ以外の日常生活で陰ヨガを実践しようとしている人に、何かアドバイスはありますか?
Jo まず、陰ヨガと陽ヨガの両方を実践するようにお勧めします。アシュタンガやパワーヨガなどのアクティブな陽ヨガもやめないでください。陰ヨガと陽ヨガは別々にする必要はなく、「陽」を続けながら「陰」の練習を継続的に取り入れるのがよいと思います。
東京、シンガポール、ニューヨークのような大都市に住んでいる人は、とくにストレスの多い環境にいます。陰ヨガを実践してから忙しい世界に戻れば、陰ヨガで学んだことを人生や周りの環境に持ち込むことができます。ストレスを感じるとき、怒りを感じるとき、何をすべきか分からないとき。陰ヨガは自分自身を落ち着かせるためのテクニックとツールとなり、より親切で、より穏やかで、より平和な人物になれるのです。
陰ヨガの創始者、ポール・グリリー、妻のスージー・グリリーと。
UTL 日常生活の補完としての陰ヨガですね。
Jo 私も陰ヨガを始める前は、常に忙しさとストレスを感じていました。いまではのんびりとしすぎていて、もっと速く行動しないとと思っているくらいです(笑)。なので、どちらかを選ばないでください。「陰」と「陽」の両方で、バランスが取れるようにすることが大切です。
UTL 11月に予定しているティーチャートレーニングでは、陰ヨガ、解剖学、筋膜リリースなど、様々な内容が取り入れられています。参加者は何を学ぶことができますか?
Jo このトレーニングには3つの要素があります。最初の要素は陰ヨガです。理論、ポーズ、指導法、クラスのシーケンスを学びます。
次に、筋膜リリースについて学びます。筋膜とは何か、筋膜の大きさ、なぜ重要なのか、体が傷ついたり疲れたりしたときに筋膜に何が起こるのか、筋膜を健康に保つ方法。そして、ボールを使って筋膜の緊張を解放する筋膜リリース。様々なテクニックを学んで、筋膜リリースを陰ヨガに組み込む。これが数年前に開発したテクニックであるMyoYinです。
最後は、脊椎の解剖学です。人体の解剖学のすべてを60時間で学ぶことはできません。このトレーニングでは脊椎にフォーカスし、脊椎の解剖学、脊椎を構成する骨、靭帯、筋肉の異なる部位の名前、脊椎の異なる動きを学びます。最も重要なのは、なぜある人は脊椎の動きが多く、ある人は少ないのかを理解することです。これは骨の形状によるものです。異なる体型、異なる参加者のポーズを比較分析し、なぜ脊椎の動きがいいのか、ポーズに苦戦するのかを分析します。このトレーニングでは、生徒を見て骨の形状を知る方法も教えます。
UTL とても楽しみな内容ですね。
Jo MyoYinのトレーニングは、陰ヨガと筋膜リリースを組み合わせた、現在一番人気のトレーニングです。世界中のティーチャーとトレーナーが学んでいるので、各国でMyoYinクラスを教えています。
#3 未来への想いとヴィジョン
UTL COVID-19について少しお話ししましょう。パンデミックは、あなたのヨガの実践や指導にどのように影響を与えましたか?
Jo はい、COVID-19から得たことの1つは、スローダウンする方法を学んだことです。それが「陰」であり、人生のあらゆることをスローダウンしましょう、と教えてくれました。私たちはCOVID-19によって、3年という期間、自分の人生をよく観察し、人生で本当に何をしたいのかを考える機会を得ました。
以前にしていた多くのことをしなくなりました。私自身は、一年のほとんどが旅する生活でしたが、自分の人生を大切にするための時間を作りたいと思うようになり、中医学の学校に戻ることにしました。脳科学も勉強しており、修士で学んでいます。もっと勉強する時間が必要であると感じ、自分の人生に異なる優先順位をつけ始めました。休むことを学び、たくさん寝て、運動して、健康的な食事をしています。多くの人々が、私と同じように好きなことを始め、自分自身のケアの方法を学ぶようになりました。
UTL 確かにそうですね。
Jo もう1つよかったことは、オンラインヨガです。世界中の多くの生徒とつながることができ、より多くの人々にヨガを教えることができることに、とても感謝しています。
ポストコロナでもオンラインヨガを継続している。
UTL オンラインヨガについても質問したいと思っていました。
Jo COVID-19の最中、オンラインで学ぶ生徒が増えました。COVID-19後も、時間やお金の問題で旅することができない人がたくさんいますが、オンラインで陰ヨガを学ぶという選択肢ができました。先週、マイアミのキノ・マクレガーのスタジオで教える機会がありました。彼女のスタジオはアシュタンガヨガのスタジオです。アシュタンガヨガのような高強度のヨガをする人も、バランスのために陰ヨガを取り入れることができます。陰ヨガコミュニティの生徒にも、バランスの大切さを知ってもらいたいと思っています。ときには高強度のヨガを試してみること必要なのです。
先週のトレーニング中、スタジオ受講者以外にも、オンラインでトレーニングを受けている生徒がたくさんいました。オンラインの生徒の方が多かったくらいです。COVID-19が収束したいまでも、まだまだ多くの人々がオンラインでヨガのトレーニングを受けたいと思っていることがわかりました。オンラインと対面のハイブリッド。これが、ヨガの未来だと思います。
UTL 今回のインタビューは、UTLのヨガコミュニティに発信する予定です。最後に、コミュニティメンバーにメッセージをいただけますか。
Jo UTLの皆さんへ。スタジオ、オンライン、どちらでもいいのでヨガを継続してください。また、20年以上ヨガをしている1人の練習生として、1つのスタイルだけにこだわらないでください、とお伝えしたいです。
異なるスタイル、異なる先生、異なる伝統を試してみてください。何が最適かはわかりません。そして、年齢を重ねるごとに、人生で必要なものは変わってきます。10年前、5年前とは、体、仕事、人生が変わったかもしれません。それに合わせて、ヨガを変える必要があるかもしれません。
私はヨガの先生ですが、誰にでもヨガを勧めてはいません。体を癒し、心を落ち着かせ、平和を保つために、何でもできることをやってください。最も重要なことは、運動することです。ヨガだけでなく、ダンス、ランニング、ジョギングなど、何でもいいので、運動してください。
あとがき
様々なスタイルや伝統を試すことを奨励する、Joの柔軟性に感銘を受けました。また、COVID-19を、自分の優先事項を見直すための機会と捉える姿勢も参考になりました。熟練した思慮深いティーチャーであるJoが、11月のトレーニングで生徒の方々をサポートする姿を楽しみにしています。みなさんが人生における平和とバランスを見つけるきっかけになることを願っています。
2023/11/14(火)-21(火)JO PHEE/陰ヨガティーチャートレーニング 60時間
(MyoYin、筋膜リリース、背骨の解剖学)Yin Yoga Teacher Training 60hrs
Jo Phee(ジョー・フィー) |