ANU(アヌ):東京からシャスタ山麓へ

ANU

One World, Many Asanas vol.4

「One World, Many Asana」は、世界中の人々がどのようにヨガを実生活に取り入れて実践しているのか探求し、共有することを目的とするプロジェクトです。

UTLの元ティーチャートレーニング講師で、現在は北カルフォルニアにあるシャスタ山(*1)の麓に移住された、ANUさんとの対談をお届けします。ヨガインストラクターとしての活動についてはもちろん、ヨガ通訳やヨガアライアンス本部の専属スタッフとして働かれた貴重な経験についてもお話いただきました。

(*1)シャスタ山は、アメリカのカリフォルニア州に位置する有名なパワースポットであり、ヨガ愛好家やスピリチュアリストにとって魅力的な場所です。この山は、その美しい自然環境とヒーリングのエネルギーで知られており、多くの人々がリトリートやスピリチュアルな実践を行うために訪れています。シャスタ山の麓に移住されたANUさんは、このパワフルな山の周囲でヨガ活動を行っています。



#1 ヨガへの道

UTL  最初にヨガを始めたきっかけは何だったんでしょうか?

ANU  当時お付き合いをしていた方に、ジムでのヨガクラスに連れてってもらったのがきっかけです。ジムデートみたいな感じで。20年前ぐらい前の話ですね。

UTL  最初のヨガはジムだったんですね。

ANU  先生がお年を召した方で、もしかしたら結構若い方だったのかもしれないんですけど、落ち着いた方だったんですね。とても元気なおばさまで。
赤坂にあるジムだったので、外国人、モデル、外資系企業のお兄さんたちが来てるようなところだったのですが、その人達に合わせて、「あなたはそのぐらいでいいのよ」みたいな感じで、テキパキとヨガクラスを進行していたんですね。お母さんみたいな感じで、すごい良かったんです。

ある日、「私、先生を追いかけてインドに行くので、当分お休みします」って言っていなくなっちゃったんですね。そんな結構なお年で、自由にインドに行っちゃったりして、何か素敵な人生だな、こういう人になりたいなと思ったんです。

UTL  そこから、スタジオでのヨガに行くようになったのは?

ANU  あの先生の素敵な感じは、ヨガに何かあるんじゃないかと思って。ヨガというのは何だろうって調べ始めたんですが、当時スタジオに行くのはなかなか敷居が高かったんです。

それで、いろいろ転機もあったので会社を辞めることにして、アメリカのヨガのティーチャートレーニングに行っちゃったんです。

UTL  スタジオのヨガに行かず、いきなりヨガティーチャートレーニングだったのですね。

ANU  当時日本だと、トレーニングはもちろん、ワークショップもなかったんです。コツコツとヨガクラスを受けないと教えてもらえないような感じだったので、それはちょっと時間がないなあ、と。

ちょうど友達がアメリカにいるときだったので、その子に会いに行くついでに、ヨガとはなんぞやっていうのを見に行きたいと思っていろいろ調べたところ、わりと門戸が広いティーチャートレーニングがあったので、そこに決めました。

UTL  それはアメリカのどこだったのですか?

ANU  サンフランシスコの南に、サンタクルーズっていうところがあるんです。そのサンタクルーズよりも少しちょっと内陸に入った小さな町の山のてっぺんにあるヨガリトリートセンター(*2)みたいな感じのところでした。

そこにグル(*3)もいて、最初は、怪しいのかなと思ったんですけど、「ヨガは宗教じゃない」っていう文言がWebサイトに書いてあって、大丈夫かなと思って行きました。

(*2)ヨガリトリートセンターとは、ヨガを中心に行われる短期または長期の集中的なトレーニングや宿泊施設のことを指します。これらのセンターでは、参加者が日常のストレスを離れ、ヨガの実践や瞑想に集中し、心身のリラックスや成長を促進する環境を提供しています。ヨガリトリートセンターは、ヨガインストラクターやヨガ愛好家にとって、学びや交流の場として重要な役割を果たしています。
(*3)グルとは、ヨガの文脈でのスピリチュアルな指導者や教師のことを指します。彼らは生徒に対して指導や啓示を与え、心身の成長やスピリチュアルな進化を促進する役割を果たします。

UTL  そこで学んだのは典型的なハタヨガですか?

ANU  はい、ハタヨガですね。ちょっと待ってくださいね。(本を一冊持ってきて、木の描いてある図を見せてくれる)。

UTL  これ何の木ですか?

ANU  はい、ヨガの流派がどのように枝分れしたかという図です。図ではどの流派と繋がってるっていうよりは、独自の路線をいってるんですけれども、クリパルヨガとか、インテグラルヨガとかに近い感じですかね。あるヨガの先生に言わせると、シバナンダヨガ風ですね、とのことでした。特に決まったシーケンスがあったりするわけじゃなくて、基本的には瞑想とカルマヨガ(*4)に生きていきなさいという感じで、アーサナとか呼吸法っていうのは一つの手段だという教えでした。

(*4)カルマヨガは、「行動のヨガ」とも呼ばれ、バガヴァッドギータの教えに基づいています。このヨガの教えでは、行動を通じて自己の成長やスピリチュアルな進化を促進することが重要視されています。カルマヨガは、自分の役割や責任を全うし、無私の心を持ちながら、善行を積み重ねていくことを目指します。行動そのものに意識を向け、自己の内なる真理との結びつきを深めることで、心の平安や穏やかさを実現することを目指します。

UTL  そのヨガティチャートレーニングは1ヶ月間ぐらいですか?

ANU  そうです。それを受けて、OL休業中に1人旅をしていたんですけど。帰国してお仕事どうしようと思っていたら、スタジオヨギー(*5)がヨガインストラクター募集していたのが、ヨガインストラクターとして活動するきっかけでした

(*5)スタジオ・ヨギーは、2004年創立の日本のヨガスタジオ。ヨガ・ピラティスのレッスンやワークショップを提供しています。

UTL  その後、UTLと関わるようになったきっかけは何だったんですか?

ANU  2006年末ぐらいにスタジオ・ヨギーをやめて、3ヶ月間くらい、最初にトレーニングを受けたリトリートセンターに戻って、カルマヨガをしてたんですね。

ちょうどアーユルヴェーダのコースが始まっていたんですが、3ヶ月では全部を取り切ることができないので、聴講だけさせてもらっていました。その際に、先生にアビアンガ(*6)を教えてもらって、資格もいただきました。帰国後、アーユルヴェーダもある程度勉強してしようかなと思っていたときに、UTLに声をかけていただいてアビアンガをさせていただくことになりました。

時期は2007年くらいだと思います。実際に在籍させていただいたのはそんなに長くないんですけれども、濃い数年間でした。

(*6)アビアンガは、アーユルヴェーダの一部であり、マッサージやオイルトリートメントの一形態です。この技術は、アーユルヴェーダの原則に基づいて、身体と心の調和を促進することを目的としています。アビアンガには、特定のアーユルヴェーダのオイルを使用し、リンパの流れを改善し、毒素を排出することに重点を置いています。このトリートメントは、リラックス効果をもたらし、ストレスや疲労の軽減に役立つとされています。

ANU

ティーチャートレーニングの同期と。

#2 地域の違いとチャレンジ

UTL  当時は東京、今は北カルフォルニアでヨガを教えられていますが、教える上での違いとか、チャレンジみたいなものは、何かありますか?

ANU  今教えているところは、人口が少ない地域っていうのもあるんですけど、年齢層が高いんですよね。農家の人や、定年で会社をやめたみたいな人が多いかな。最近は60代の人のお母さんまでいて、92歳までいるんですね。

違いというのはそんなになくて、元気な方々で、楽しいし、学ばせていただいてるって感じなんです。普通にやっていても、シニアヨガになっちゃう感じです。チャレンジはですね、いかに部屋を暖めるかっていうのが、チャレンジなんです。

UTL  部屋を暖める?

ANU  すごい古い建物ばっかりなので、薪ストーブで火を焚かなきゃいけないとか、窓の隙間を埋めなきゃいけないとかね。いろいろあってそれが大変です。

UTL  ちなみに今、気温は何度ぐらいなんですか。

ANU  (温度計を見ながら)午後4時48分で摂氏6度です。夜はマイナスにもなってますね。朝は霜も降りてます。クラスの基本は摂氏20度ぐらいがいいらしいんですけど、そこまでいかない。皆さん厚着で頑張っています。

ANU

北カリフォルニアでは、森の中でキャンプヨガを開催することもある。

#3 個人的な実践とロールモデル

UTL  個人的なヨガの練習は始めたときと比べてどういうふうに変わってきましたか?

ANU  最初の頃は、ヴィンヤサスタイルの踊っている感じが大好きだったので、楽しくやっていたし、シークエンスを考えながらやっていくのが大好きだったんですけど、年齢とともに、ゆっくりペースになってきました。自分の練習はそのまま、自分のヨガのクラスに反映されると思うんです。移住した当時は他の方の状況を把握できず、それを押し付けていたんですけど、最近は自分が妊娠したっていうのもあって、かなりゆっくりになりましたね。ストレッチみたいな感じですね。

UTL  ヨガインストラクターとしての活動の他にも、ワークショップやティーチャートレーニングの通訳もやっていらっしゃいました。通訳をやってるときに、学んだことはどんなことですかね。

ANU  有名な先生に出会えたのでとってもラッキーでしたね。いろんなスタイルを学ばせていただきました。事前にいろいろ調べなきゃいけないので、本を読んだりビデオを見たり、ネットで調べたりと、そういうことをしながら勉強ができて、ありがたかったですね。

自分自分のクラスじゃないので、通訳の師匠からは「黒子になりなさい」と言われてました。先生の色を出すために、ただコツコツ訳しなさい、と教わりました。

英語もネイティブレベルでできる、と言うわけではなかったので、英語も勉強させてもらったし、今のクラスに繋がっていますね。

UTL  みんな素晴らしい先生たちだったと思うので、挙げるのは難しいかもしれないですけど、特に印象に残ってる先生はいますか?

ANU  すぐ出ますね。イアン・フィン(*7)です。

(*7)イアン・フィンはヨギでサーファーで環境活動家。幸福の基盤として自然へ敬意を払うことを勧めるヨガのシステム、Blissology(至福学)を提唱している。

あの気の抜けた感じが、もう本当に素晴らしいと思いましたね。ティーチャートレーニングの通訳をやらせていただいたわけじゃないので、その一面しか見てないですけども、ヨガ哲学を日常の中に取り入れ、また「ああ、何かわかる!」というジョークにしたり。

今、オンラインでも教えられているので、アメリカの人向けのジョークとか面白いなーと思いながら見ています。もちろんダイナミックにヴィンヤサで動くから、それも楽しいです。

UTL  ANUさんのロールモデルはイアン・フィンですか?

ANU  そうですね。ヨガリトリートセンターのグルであるババ・ハリダスさんも同じような感じで、いつも笑いを交えていて、気軽なんですよね。それでいて地に足がついている。ヨガの日常じゃなくて、日常があってヨガがあると楽しく生きていけるよ、みたいな感じの教えです。

ANU

妊娠、出産を機に自身のヨガの練習はゆっくりなものになっていった。

ANU

インド・ヨガで、ヨガアーツのティーチャートレーニングでヨガ通訳を行った。ヨガアーツ主宰のルイーザ・シアー先生と。

#4 ヨガアライアンスでの経験とヨガ業界への提言

UTL  ヨガアライアンス(*8)本部のスタッフとして働いていたときの経験をシェアしていただけますか?

 

(*8)ヨガアライアンス(Yoga Alliance)は、国際的なヨガ教師認定機関であり、ヨガの教育と倫理基準の向上を目指しています。
2000年に設立され、以来、世界中のヨガ教師養成プログラムとヨガ教師を認定してきました。ヨガアライアンスは、教師養成プログラムの基準を策定し、教師の質を確保するためのガイドラインを提供しています。
ヨガ教師としての信頼性と専門性を高めるための機関として、ヨガ界で重要な存在です。

ANU  ヨガアライアンスの仕事はとても楽しかったです。お友達もたくさんできました。こちらは西海岸ですが、他の方々はみんな東海岸がベースで、なんか文化が違うんですよね。西海岸の人はリラクックスした雰囲気がありますが、それとは対照的で、東海岸の人はキチンとしていてクールな雰囲気でした。それでいてヨガアライアンスはヨガコミュニティのための団体なので温かみがあります。それが私にとってとても居心地の良い場所でした。

UTL  皆さんヨガをされてる人たちなんですか?

ANU  はい、大体皆さん、何かティーチャートレーニングを受けたりとかされていました。でもヨガはしたことがない人も何人がいらっしゃいましたよ。NSA(アメリカ国家安全保障局)で働いてたとか、軍関係の人もいました。

UTL  言える範囲でいいんですけど、何名ぐらいのスタッフがいるんですか?

ANU  私がいたサポートチームは12、13人だったと思うんですけど、数えたことはないですが100人はいないくらいじゃないかと思います。

UTL  ほぼアメリカに住んでる人たちですか?

ANU  はい、時差の問題でっていうだけだと思うんですけどね。メインは東海岸の人で、あとはバージニア州、コロラド州、そしてスペイン語担当の子はテキサス州、といろんなところからでした。

UTL  ヨガアライアンスで働いていたとき一歩引いた立場で、ヨガ業界全体のことを見る立場にいらっしゃいました。ヨガ業界の課題、今後のヨガ業界はどういうふうに進んでいったらいいか、みたいなことはありますか?

ANU  ヨガアライアンスは、ヨガインストラクターを職業っていうこととして認知してもらった上で、保険に入れて、教える方も受ける方も守られるようにしたい、っていうところから始まりました。職業として認められるために、倫理観を求めたり、ティーチングのスタンダードを決めたりしてきました。そういうことを、もっとヨガアライアンス登録校が教えてくれないと、登録講師は何だかよくわからないうちにお金ばっかり取られる、みたいな感じになってしまいます。

だから、「こういうのがきっかけでヨガアライアンスは始まって、恩恵(*9)を受けたかったら入会すればいいのよ」っていうことを教えていくべきですね。

自分もそうだったように、何だかよくわかんないけど、とりあえず入っておこうっていう感じじゃないですか?アメリカは訴訟大国だからそういうのが必要なのかもしれないってのもあるんですけど、日本でもヨガを職業として認めて欲しかったら、ヨガアライアンスでも何でもいいんだけど、もうちょっと意識を高めて、ヨガの指導に当たれたらとは思います。

(*9)ヨガアライアンス登録講師として登録することの恩恵とは、様々な特典が得られることである。ヨガインストラクター保険はその一つ。アメリカとイギリスとカナダと日本の登録講師はヨガインストラクター保険に割引価格で加入できるようになる。日本ではヨガ安全協会の「ヨガの保険」がヨガアライアンス登録特典になっている。

UTL  それをわかってる人って、日本の中でも1%ぐらいしかないと思います。

ANU  スタジオの経営されてる方ですら、よくわかってないような感じです。

UTL  みんなが入ってるから、とりあえず入っておこうという感じですね。

ANU  ヨガアライアンスは職能団体なので、今後は「なんとなく入っている」のではなく、世界中に広がっているヨガコミュニティの一員として、ヨガアライアンスを通して知識を深めたり、自ら情報を発信するような積極性を持っていけたらいいですね。

UTL  本当にそこは意識が欠落している部分と思います。

ANU  ヨガアライアンスは、世界中で信頼されている団体だということを実感しました。

会員の先生や登録校の指導方法や経営方法は倫理に反するんじゃないかとか、会員、登録校じゃないのに、人が集まるからといってヨガアライアンスのロゴを無断で宣伝に使われているといった苦情が寄せられるんですね。

そして、それに対して、苦情対策係がいることを知りました。ティーチャートレーニングをプロデュースしてる会社だったり、宣伝してる会社だったり、ヨガの先生じゃない人もよくアライアンスに質問してきたりしましたね。

UTL  ヨガが広まっていくと同時に、そういった怪しい人も現れてきたっていうことですね。

ANU  日本語担当の私、スペイン語担当、中国語担当、と最初3人が採用されたんですけど、AI翻訳ができる時代にわざわざ人を雇ったというのは、その3言語を使っている人たちが多いんだと思うんですね。その上でメンバー同士が語れるオンライン掲示板を作ったりとかしてたりして、ヨガアライアンスしてはできるだけメンバーとコミュニケーションを密にとっていきたい、ということで、頑張っています。

#5 新人ヨガインストラクターへのアドバイス

UTL  最後に、ヨガ実践者、特にこれから活動していく新人インストラクターに向けての何かメッセージがあればお願いします。

ANU  ヨガをやりたいと思ったときに、もうそこでヨガの自分の道が始まってるんだと思います。**いろんなタイプのヨガがあり、だんだん対立みたいなのが気になっちゃう人もいる**と思います。特に日本人がそうだと思うんです。最初の自分の直感を信じて、楽しくやってほしいなと思います。

がんじがらめにならず楽しくやってほしい、というのがこれから先生になる人や先生を始めた方へのメッセージです、Teach to Learn(ヨガを学ぶために教える)っていう言葉をグルからもらったんですけど、Teach to Learnのスタンスでやってみると、緊張がほぐれていいんじゃないでしょうか?

UTL  今日は貴重な話をありがとうございました。

あとがき

UTLの元ティーチャートレーニング講師で、現在はパワースポットとして有名なシャスタ山の麓に移住されている、ANUさんとの対談をお届けしました。ヨガの経歴以外ににもヨガアライアンスでのお仕事についての貴重な話も伺えました。 また、ヨガ業界全体についての課題については、ヨガ業界に関わる全ての人が注意を払うべきだと思います。インタビュー中には、生後15ヶ月のお子さんを見せていただくこともでき、楽しいインタビューでした。ありがとうございます。

 

ANU(アヌ)
2004年にババ・ハリダスに師事しヨガティーチャートレーニングを修了。大手ヨガスタジオの創設に携わり、リストラティブヨガ、マタニティヨガのプログラムを開設。UTLでは、ヨガティーチャートレーニングの講師、またワークショップ、トレーニングの日英翻訳/通訳を務めた。
現在は、カリフォルニア州の最北にある人口750人の町でローカルの人々やハイカーにヨガクラスを提供している。

E-RYT200/RYT500、 PRYT

http://yukoyoga.com
Instagram:@yukoyoga_official

インタビュアー:Hiroshi Funakoshi
2006年からバリ島に移住。UTLでは、インターナショナルリレーションを担当し、海外のパートナーや組織との連携を元ヨガティーチャーの立場から推進。コロナ禍以降は、オンラインヨガ事業の責任者も兼務。