YASUE:ヨガへの深い情熱

YASUE

One World, Many Asanas vol.4

「One World, Many Asana」は、世界中の人々がどのようにヨガを実生活に取り入れて実践しているのか探求し、共有することを目的とするプロジェクトです。

UTLのティーチャートレーニングの礎を築いてくれたYASUEさんにインタビューしました。フィットネスの世界からヨガの道へと転身した経緯や、子宮がんの経験、イギリスでのヨガ指導、等について語っていただきました。



#1 ヨガとの出会い

UTL  ヨガと出会うまでのことを教えてください。

YASUE  子供の頃は体質的に病気がちで、割とひ弱な子でした。小学6年生ぐらいの時に、お医者さんから水泳していいよ、運動していいよと言われたのですが、それまで運動をしてこなかったので体のベースができていなかったんですよね。いろいろやり始めてフィットネスにハマって、ストレッチやトレーニングをしていたんですけど、元々強い体ではないので怪我もしやすいわけです。頑張って運動をやるのですが、ケアが足りないので、しょっちゅう怪我をするようになって。
亜脱臼とか、足首などの足の怪我が非常に多かったです。足底筋膜炎から、かかとの骨が変形して、いびつになって歩けなくなるくらい酷くなってしまって。病院に通って骨を削るか、フィットネスの運動を集中してやるのをやめるか、と言われた時に、自分のキャリアを考え始めました。

UTL  怪我をきっかけにヨガに出会ったのですね。はじめから情熱を感じていたのでしょうか。

YASUE  ヨガはストレッチの要素もあるし、穏やかな動きなのでやっていましたが、当時、日本では今ほどヨガは大々的に表立っていない時代で。都内のヨガスタジオに行ってヨガをしていたのですが、リストラティブヨガで、静かな感じなので、ちょっと私には合わないなと思っていました。

UTL  そこからヨガに対する意識が変わった出来事があったのでしょうか。

YASUE  当時、私は音楽が好きだったので、マドンナやスティングがきっかけになったというのはあります。それでアシュタンガとかパワーヨガみたいなものに惹かれるようになりました。その時に、ロサンゼルスに私と似たような、フィットネスのバックグラウンドを持つ先生を見つけました。
アシュタンガっぽいんだけど、そこまで強くないから誰でもできるんですね。指導の仕方もとても上手でした。動くメディテーションのような感じで、パワフルで。当時私は足をつくことができなくて、歩くのも痛いくらいだったのに、このヨガはできたんですよ。自分の体に起きた出来事に驚きました。もっとこれを練習したいな、と思ったのがきっかけです。

UTL  それ以外にもいろいろなヨガをされていたのでしょうか。

YASUE  海外のちょっとセレブっぽい人たちがやっているパワーヨガ、ヴィンヤサヨガみたいなものに、とてもハマったんです。海外では、パワフルなものの評判が良かった事もあって、しょっちゅう海外に行っていました。

UTL  当時、日本ではそういったパワフルなヨガを学ぶ場所は少なかったと思います。

YASUE  そうですね。なので、日本では、ストレッチ系の優しいヨガを自分のケアのためにやっていました。

YASUE

インドのスタジオの練習風景。

#2 新たな学びと成長

UTL  一つの流派を突き詰めるのではなく、ヴィンヤサヨガ、シヴァナンダヨガ、アイアンガーヨガクラスなど様々な流派を学んだ上で得られたことについて教えてください。

YASUE  もちろん、古い流派やオリジナルの流派をやっている人たちを、私はとても尊敬しています。今でも尊敬している上で、私は自分の道で良かったなと思います。どの世界でもそうですが、良いところがあって、足りないところや弱い部分があります。それは悪いことではなくて、向き不向きもあるし、相性がありますから。それを踏まえて、私はこれで良かったなと思います。それぞれをやっていた中で、ここが自分に欠けているなというところを見つけることができました。

UTL  最初からそういう考えをお持ちだったのでしょうか。

YASUE  いいえ、違います。やっているうちに変わってきたんです。私はどちらかと言うと、やり始めて没頭するとガーッとなるタイプなので。若い頃は特に、これと決めたらガーッといっちゃう。例えば、アシュタンガでも、他の皆さんみたいにパーフェクトなアーサナができていなかったのですが、気が狂ったかのように毎日マイソールへ行ってしまう。
私は旅行が好きなのですが、海外旅行に行くにしても、イタリアに行くんだったら、ヨガができる場所を探して行く。ローマのコロシアムのところに大きなアシュラムがあって、そのあたりでワークショップをやっていると聞けば行ってみたりして。お休みを取って旅行に行っているのに、ワークショップを探して受けたりしちゃうタイプ。のめり込んでやればやるほど、自分に足りないところが見えてきたりするし。良い意味でやり過ぎているところから、バランスが見えるようになったのは、ヨガを始めてからですね。

UTL  最初から一歩引いた目で自分を見ることは、なかなか難しいですよね。

YASUE  難しいですね。でも、失敗はたくさんのことを私に教えてくれました。怪我と失敗は、一歩引いた目で自分を見る良いきっかけだと思います。

UTL  失敗から学んだエピソードを教えてください。

YASUE  失敗した経験はたくさんあるのですが、一つ挙げるとしたらアーサナに関することです。アシュタンガでもう一歩先に進みたくて、一生懸命自主練習をしていた時に、肩と足首を亜脱臼してしまいました。特に道場に行ったり、クラスを受けたりしていたわけではなくて、自分の家で自主練習をしていて怪我をしてしまったので、完全に自分の不注意ですよね。
それで、しばらく体を動かすことができませんでした。動けない時に、「何て自分は馬鹿なことをしてしまったのだろう」といろいろ考えて。その当時、毎日1時間から2時間メディテーションをしていたのですが、自分に足りないのは肉体ではない部分で、そこを学ばなければいけないのではないかな、と気づきました。当時仕事をしていたスタジオの同僚がシヴァナンダのクラスを運営していたので、私も受けてみました。そのことがきっかけでシヴァナンダを学ぶようになったわけです。振り返れば、失敗があったからこそ、様々な流派に触れることができて、自分の学びや成長へとつながっていったのかなと思います。

YASUE

インドのリシケシで1ヶ月以上ともに過ごしたヨギニと。
メンバーはイギリス人、ロシア人、オランダ人、イスラエル人と様々。

#3 指導者としての道のり

UTL  2002年にヨガの指導を始めたきっかけは何ですか。

YASUE  怪我をして、体が思うように動かなくなった時に出会ったヨガの練習の中で、体が喜んでいるのを感じました。元々やっていたフィットネスや運動でも、練習する楽しさや喜びをみんなでシェアするのが好きでした。これなら体が動くし、何かシェアしたい、伝えたいという気持ちもあって。今、日本でこのヨガを受けられる場所がないなら、これを私がみんなに伝えたらいいのではないか、と。自分がやりたいことと、仕事が一緒にできるんだから、キャリアチェンジしようと思いました。

UTL  フィットネスを続けながらではなく、ガラッと方向転換してヨガを学び始めたんですね。

YASUE  最初に始めたパワーヨガは、ちょっとフィットネスあがりで、アシュタンガを優しくしたようなみんなができるようなものでした。その後に、古典的な、伝統的なヨガ、インド発祥のものを学ばないと、ヨガを教えることはできないよなと思って、伝統的なものをやり始めました。その後もヴィンヤサやシヴァナンダ、アイアンガーなどいろんなスタイルのヨガを学びました。

UTL  UTLでのRYT200コースを指導された経験について教えてください。

YASUE  私の人生において、ヨガだけでなく、働くための仕事場として、ものすごく良い経験をさせてもらいました。いろいろな人と出会えたことはもちろんですが、いろいろな流派を超えて、仲良くすることができて。今は当たり前かもしれませんが、少し前だったら異なる流派の人たち同士が交流することはなかったと思います。ヴィンヤサ、アシュタンガ、シヴァナンダ、アイアンガー、今は違うこともしていて、ストイックに1つだけをやってきてはいないけれど、それらを自分がやってきた経験があったからこそ出会えた人がいて、それらを全部やった人がいたからチームができました。あなたは◯◯だからそれだけ、ということではなく、同じチームとして一つのものになることが、ハタヨガとして全部に繋がるわけです。

UTL  RYT200コースの講師として、チームビルディングで苦労した点はありますか。

YASUE  苦労は全くなかったです。200時間のティーチャートレーニングは、登録すればできますから、いろんなところでやっていますよね。でも、UTLがやってきているティーチャートレーニングは、それぞれに権威ある講師陣がいるわけです。それだって倉持社長が「誰か良い先生いませんか?YASUEさんに任せますよ」って言ってくれて。そういうところから、例えばフィロソフィーを学ぶのであれば、成瀬先生が入ってくれたり、向井田みおさんに声を掛けようってなったり。アシュタンガであればクランティやHIKARUさんは、当時はシヴァナンダだったけれど今はアーユルヴェーダもやっているし、アナトミーの中村尚人さんもいて。もちろん、それぞれに主張はあるから、小さなことでいろいろあったし、やっていることは違う道のりだけれど、同じ頂上に向かって山を登っているわけだから。目的に向かっている方向は一緒だし、講師の人たちはみんなそれをわかっているから、苦労はないですよね。私自身、この素晴らしいチームと働けたことは、とても良い経験になっています。

YASUE

中村尚人先生と一緒にやった『図解YOGAアナトミー』の出版記念ワークショップ。

#4 ヨガの革新

UTL  現在教えているMoving Fascia yogaとは、どのようなものですか。

YASUE  Moving Fascia yogaは、筋膜リリースやアメリカで創始したロルフィングが元になっています。基本的なヨガと似ていて、ボールや道具を体に当てて呼吸をメインに動いていきます。流れとしては、呼吸を意識しながら横たわって小さな動きをすることによって、筋膜に働きかけていきます。そして、徐々に体を柔らかくし、拡張させていくことで回復していくといったものになります。

UTL  Moving Fascia yogaができたきっかけについて教えてください。

YASUE  移住したイギリスでセラピストの勉強をしている時に、子宮がんを患いました。手術をして、体が回復してからストップしていたヨガの練習を続ける中で、たくさんの違和感を感じました。頭の中では体は動けると思っていても、怖くて動けなかったりして。実際に動いてみると、傷跡を通して皮膚が引っ張られている感覚だったり、トラウマのように痛みが残っていたり、体がいろいろなことを教えてくれるのです。そういった傷跡に対して、筋膜リリースはとても効果的だと感じていた時に、当時仕事をしていたスタジオに、Moving Fasciaの創始者のDr.アナがいて、皆そのコースに行っていました。ただ、アナトミーをしっかり勉強しないとわからないような内容で、専門用語が多すぎて、ちょっと頭がおかしくなりそうでしたが…。

UTL  Moving Fasciaの創始者のDr.アナの助言があったのでしょうか。

YASUE  1年とか長い時間を掛けて練習をしていくのも一つの手だと思うのですが、短時間で緩めることができるMoving Fasciaとヨガを結びつけることで、より効果に繋げられるのではないかと彼女に言われたことがきっかけで生まれました。ヨガのアーサナの前に、Moving Fasciaをすることでもっとパフォーマンスが上がったり、アーサナが取れたりする。同じアーサナをするにしても、Moving Fasciaをした後のアーサナと、いきなり練習したアーサナを比較すると大きく違うわけです。私自身もそうですが、いかに持っている体を動かせるようにするか、動かし続けて年を重ねていくか、というところも年齢的に課題になってきていますし、そういった部分ではMoving Fascia yogaは効果的だと考えています。

YASUE

Moving FasciaファウンダーのDr.アナと。

#5 国際的な指導経験

UTL  イギリスに移住されて13年ほど経ちますが、イギリスでの指導と日本での指導の間でどのような違いがありますか。

YASUE  地域でも異なるのですが、例えば都心であれば初級、中級、上級とクラスが分かれていますが、私が住む地域は田舎なので、ほとんどのクラスがオールレベルになります。その中でも、日本であればヨガクラスに足を運ばないような人も参加します。私がアジャストできないくらい体型が大きい人や、がんの治療中の人、関節炎がある人、筋肉が動かなくなってしまうような人など、体に不調を抱えている人が同じクラスに普通に入ってきます。様々な症状がある人にヨガを教える場合、経験のない先生だと何かあると怖いのでソフトなストレッチのクラスだけで終わってしまいますよね。私も最初はそうなりがちでした。言葉の壁もあったので、たくさん勉強しましたよ。

UTL  異なる文化的背景を持つ生徒に教える際の挑戦と学びについて教えてください。

YASUE  日本と違うのは、様々な宗教の背景を持つ人がクラスに参加します。同じクラスの中に、イスラム教の人がいると同時に、カトリックがいて、儒教がいて、というような環境です。なので私はヨガフィロソフィー的なこと、八支則的なことは一切口に出していません。それよりもどちらかと言うと、アーサナと通して自分自身に何が起きているかを気づいてもらえればいいかなと思っています。どれだけ自愛できるか、どれだけ自身を観察できるかということを、アーサナや呼吸をすることを通して気づいてもらえればいいです。ヨガに没頭している人たちだけが集まるわけではなく、それぞれ異なる宗教や考え方があったりするので、そこはいつも注意していますね。

UTL  最後にUTLの生徒さんたちに、メッセージをお願いします。

YASUE  とにかく、やってみてください。やってみて、向かないとか、できないとか、何か感じているならば、それはあなたが悪いのではなく、そういうこともあるから、次のことをすればいいというだけなので。どうしようかなと迷うんだったら、まずはやってみる。

UTL  やってみてダメだなと思ったら、また別のことをやってみればいい、ということですね。

YASUE  あんまり頭で考えすぎないことです。行動してみる。大きな行動をする必要はないと思います。小さなこと、小さなチェンジをするのが良いと思います。小さなことを続ける、始める、やめる。やめるというのも行動だから。小さな行動を常にしたら、自分が少しずつ見えてきます。そうすると、何より大切なのは自分だ、ということが見えてくるのではないかなと思います。

YASUE

渡英の際にTT卒業生たちが集まった涙の送別会。

あとがき

YASUEさんにヨガとの出会い、ヨガ指導遍歴、ヨガとの向き合い方などについて語っていただきました。彼女の一言一言から、ヨガに対する深い情熱が感じ取れました。YASUEさんの言葉は、ヨガを愛する全ての人々にとって大きな刺激となるでしょう。

 

YASUE(ヤスエ)
アンダーザライト ヨガスクールにて過去レギュラークラスと共にTTC講師を務めた後、現在は南イギリスに拠点を置き、ヨガクラス、ヨガワークショップを行うと同時にBody worker, massage therapist としても活動中。
Vinyasa Flow, Sivanada Yoga トレーニング、Iyengar yogaのアーサナ練習、これらの古典的ハタヨガを実践。自身の子宮癌の経験から、筋膜のセルフリリース、セルフアジャストメント方法といった他にないメゾットを習得し筋膜運動を学ぶトレーニング:Moving Fascia®を修了。
このコースで解剖学を引用し、身体の動きに影響する筋膜、神経、内臓の関係性を通して筋膜構造を探求。この筋膜のセルフリリースとセルフアジャストメント法を自らのヨガプラクティスに取り入れ、現在Moving Fascia®創始者のAna BarretxegurenとともにMoving Fascia® Yogaを開発し、ヨガをあらゆる人と日常生活のためのヨガを提供している。
Moving Fascia® Diploma, Yoga Alliance USA E-RYT500 registered teacher.
WEBサイト:http://yasyoga.co.uk

インタビュアー:Hiroshi Funakoshi
2006年からバリ島に移住。UTLでは、インターナショナルリレーションを担当し、海外のパートナーや組織との連携を元ヨガティーチャーの立場から推進。コロナ禍以降は、オンラインヨガ事業の責任者も兼務。