住吉美紀 × HIKARU 対談 #3

UTLでヨガインストラクターの育成に長く関わってきたヒカルさん。ティーチャートレーニング(TT)への向き合い方や、TTを通して生徒さんに伝えたい大切なこととは。親交の深いフリーアナウンサーでヨガの指導者資格を持つ住吉美紀さんを交えてうかがいました。

疑問と共に踏み出した、TT指導者への一歩

― UTLの設立2年目からレギュラークラスの講師を担当し、その後TTの指導者になったヒカルさん。当初はどんな気持ちでしたか?

ヒカル 最初は「私が教えられるかな」という疑問からスタートしました。こんなこと言ったら怒られちゃうかもしれないけど、アンチTTみたいな感じもあって。

住吉  つまりヨガの歴史や成り立ちを知れば知るほど、指導者養成コースという洋風な枠組みでヨガを学べるのか。もっと修行や道場に近い形がふさわしいのではと思ったわけですね。

ヒカル そう。私自身、練習時間以外も先生にくっついて、先生の生活の一部に入れていただくような学び方をしていたので。果たして指導者養成コースでヨガの何を学べるのか半信半疑でした。あとは、最も指導法を学べるのは、自分が習っている先生のレギュラークラスだと思っているんですね。それは今も変わらなくて。レギュラークラスにこそ先生の良さや大切なエッセンスがあって、何度も通い詰めて盗みとる。それが学びのピークだと思っているので、何百時間のカリキュラムといえどもちょっと違うと頑なに思っていました。

― その考えがどのように変わったのですか?

ヒカル きっかけのひとつは、ある日初めて私のレギュラークラスにいらした生徒さんからの質問でした。「ヨガ雑誌を読むと、ヨガをやっていると感謝の気持ちが芽生えると書いてあります。でも私が数年間やってきたヨガからは、何が感謝の気持ちに結びつくのか全然わかりません」と。それを聞いて60分、90分のクラスだけでは汗をかいて気持ちいいとか、エクササイズに留まってしまうのかなと。ちょっとドキッとした質問でした。やっぱり人生に取り入れいくようなヨガは、カリキュラムを組んでヨガの歴史や目的など全体像をしっかり理解することが必要だと思うようになりました。

住吉  それがTTの役割なんですね。確かにアーサナ(ポーズ)だけを練習してきて座学を受けると、そこに転機が生まれる気がします。「ヨガってエクササイズではなく、こんなに広くて深い考え方の体系を与えてくれるんだ」と私自身も思いました。

ヒカル 以前に家族のお世話が忙しくてレギュラークラスを休んだ生徒さんが、「ヨガをさぼってしまいごめんなさい」と申し訳なさそうに言ったんです。でも大きな意味でのヨガは、そのとき自分がやるべき役割を全うすること。ごはんのときに「いただきます」「ごちそうさま」と感謝する気持ちもヨガに通じていて、当たり前に実践している丁寧な暮らしのエッセンスがヨガだったりします。でもアーサナ(ポーズ)だけを練習してもそこまで気づけません。気づいたり、再確認したりするには、ティーチャートレーニングのようなまとまった学びの時間が必要だと今は感じています。

自分で考えて指導できる「自立した人」を育成

― 今はどのような気持ちでTTと向き合っていますか。またヒカルさんがTTを指導するうえで大切にしていることは?

ヒカル UTLは「自立した人になる」というスローガンを掲げてスクールを運営していますが、TTにもそれが色濃く表れていると思います。ポーズの順番を覚えてスラスラ言えるようになれば卒業というスクールもあるそうですが、実際に生徒さんの体調や身体の個性は様々で、ひとつの方法をすべての生徒さんに当てはめるのは難しい。一人ひとりの個性を大切にしながら、目の前の生徒さん達にふさわしいクラスの流れを自分で考えて提供できる力をUTLのTTで身に付けてほしいと思っています。私が大切にしているのは、その部分です。

住吉  例えるならレストランでお客さんに、「どうしてもお腹の調子が悪いのでちょっと胃腸に優しい内容にできませんか」と言われたとき、「このコースしかできません」じゃなくて、臨機応変にアレンジしてくれる。そんな感じですよね。

ヒカル そうですね。アレンジするには基礎をしっかり理解し、心身への効果などもわかっていないとできません。TTでヨガの目的や歴史、クラス作りの原理や指導法をしっかり学び、現場に出た時には、自信を持って安全で有意義なクラスを提供できる先生になってほしいです。見事に活躍している卒業生たちを見ると頼もしく感じます。

#4 に続きます



住吉 美紀
フリーアナウンサー/文筆家
小学時代はアメリカ・シアトル、高校時代はカナダ・バンクーバーで暮らす。国際基督教大学(ICU)卒業後、15年間、NHKアナウンサーとして「プロフェッショナル 仕事の流儀」キャスター、「第58回NHK紅白歌合戦」総合司会のほか、海外取材や音楽番組、インタビューや中継番組など多分野にわたって担当。2012年からはTokyo FM朝の情報ワイド番組「Blue Ocean」(月~金、9:00~11:00)のパーソナリティーを務め、気づけばラジオはライフワークに。2020年より夫とオープンしたカフェ「ミアヴァート珈琲」では店のプロデュースや焼菓子製作などを担当している。シヴァナンダヨガ正式指導者資格、NARD JAPAN認定アロマアドバイザー資格保有。著書に「自分へのごほうび」(幻冬舎)。茶道、着物、音楽、ネコを愛する。

HIKARU
ヨガ講師、アーユルヴェーダ・カウンセラー
アンダーザライト ヨガスクールで指導者養成コースのリードトレーナーを担当。シヴァナンダヨガ正式指導者。
AyuSyaでは、ヨガとアーユルヴェーダの叡智を統合させたセルフケアの方法を提供する。 著書に「やさしいヨガ」「はじめてのヨガ 」「はじめてのアーユルヴェーダ」「体が硬い人のヨガ入門」(以上、主婦の友社)等。


ヨガクラスで出会い、互いの「存在」に惹かれて
#2 受講動機を問わず、必ず身になる「学び」がある
#3 疑問と共に踏み出した、TT指導者への一歩
#4 この先もオンラインとスタジオの両者の良さを活用